てつむぎ+

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天声人語より 2010年6月28日(月)付


 異論はあまりないだろう。米国の外交専門誌フォーリン・ポリシーが先ごろ発表した世界の「独裁者番付」で、北朝鮮金正日総書記が「最悪」に選ばれた。2位はジンバブエムガベ大統領で、これもうなずける▼3位のミャンマービルマ)のタン・シュエ大将は、悪名高い軍事政権を率いる。肩書は「国家平和発展評議会議長」だが、国情は平和からほど遠い。その圧政下で自宅軟禁が続く民主化運動指導者アウン・サン・スー・チーさんが、65歳の誕生日を迎えたと小紙記事が伝えていた▼軟禁は通算14年におよぶ。独裁者がこの人をいかに恐れているかの証しだろう。誕生日を前に、オバマ米大統領は解放を求めたが、応じる気配はない。この国では、他にも数千人の政治犯が獄につながれている▼情報の乏しい中、先ごろ公開されたドキュメンタリー映画ビルマVJ 消された革命」から、国境の向こうが垣間見える。VJとはビデオジャーナリストを言う。小型ビデオで隠し撮りして、自国の真実を世界に伝える。命がけの映像に頭が下がる▼民意によらない独裁者には、国民すべてが脅威であることが伝わってくる。猜疑心(さいぎしん)は募り、市中に密偵を潜ませ、強制と恐怖で支配する。いわば全国民が縛られた国の、スー・チーさんは象徴といえる▼この手の国では、いとも軽く人が死ぬ。「あなたの持っている自由を、持たない人のために用いてください」という彼女の言は、持てる者の胸に重い。無関心が大きな理不尽を許してきた歴史は、なおも現在進行形である。